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ウェルビーイング。(1)

『Positive Computing』 という本の監訳に携わった。
その過程で学んだこと、考えたことを、忘れないうちに備忘録として。

日本語タイトルは『ウェルビーイングの設計論』。
英タイトルはそのまま使わずに、「ウェルビーイング」というカタカナをつかった。

ウェルビーイングとは何だろう。
ウェルビーイングとはWell-beingのカタカナ。
Being well であること。

翻訳サイトにかけると「健康で安心なこと、満足できる生活状態」と
一言で言い換える言葉は日本語にない感じだし、
日本語に訳すと、その意味はこぼれ落ちてしまう気もする。

Positive Computing では3つのウェルビーイングについて書かれている。

1.医学的ウェルビーイング:
病気でないこと。心身が機能的に不全でなく維持されていることがウェルビーイング。

2.快楽的ウェルビーイング:
気持ちいいこと。いい気分であること。主観的な状態(State)としてのウェルビーイング。

3.持続的ウェルビーイング:
この意味を説明するのに、フローリシング(flourishing)という
日本人には聞きなれない言葉が使われている。
Flourish =「開花」という意味から転じて、
人間が心身の潜在能力の発揮し、意義を感じていること。
一言で言うと「いきいきとした状態」の実現としてのウェルビーイング。
必然的に、そのような人の特性(Trait)としてのウェルビーイングということもできる。

ここで難しいのは、ウェルビーイングは、
何か観察できる具体的なものと対応させることができない抽象的な概念として扱われていること。
つまり、複雑で捉えどころがないものの、多くの人がそれについて同意できるもの。
それ自体は観察できないけど、いくつかの観察可能なものによって構成されるものとして。
天気とか、景気、元気、勇気もそうかもしれない(なぜか「気」がつくものが多い?)。

また、ちなみに、StateとTraitというのは、
「一時的な状態」と「一貫性のある人間の性質」ということ。
怒っているのはStateで、怒りやすいのはTrait。
だから、状態としていい気分という快楽的ウェルビーイングと、
その人がうまく機能し、充実する持続的ウェルビーイングは異なるもの。

人をシステムとして考えてみると、心や体のシステムがきちんと動くというのが
医学的ウェルビーイングであり、病院で治療したり、予防したりすることができる。

そして、心のシステムが快楽を感じているというのが、快楽的ウェルビーイングであり、
ドラッグとかは、あとで悪いことが起こるとしても、その瞬間は快楽を感じることはできる。

持続的なウェルビーイングは、心身のシステムがうまく動いているというだけでなく、
個人のシステムが周囲の人(別のシステム)との間でうまく機能し、
その結果として、個人のシステムの中でも自己効力感や意義を感じている状態であり、
そして、それを持続するための心身の特性を持っていることでもある。

医学的なものは、システムが動くための基盤であり、
快楽的なものは、システムがある瞬間に快を感じている状態で、
持続的なものは、システムがうまく動作していくその過程そのもの。

だから、その評価法も少しずつ違う。
医学的なものは、健康診断だったり、質問表だったり。
快楽的なものは、気持ちを聞くアンケートや、そのときの身体の変化。
持続的なものは、充実感や関係性といった、それを実現する要因が達成されているかを計測する。

これら3つは、相反するものではなく、相補的なもの。
本でも、ウェルビーイングは多次元的に評価すべきであると強調されている。
むしろ、どう組み合わせて、その人にとってのウェルビーイングを実現するかが重要である。

だから、医学的なものに基づきながら、快楽的なものだけでなく、
持続的なもの、つまり、人間のフローリシングを「促進」していくための
情報技術と人間の関係性を探求するのが、ポジティブ・コンピューティング。


『ウェルビーイングの設計論 -人がよりよく生きるための情報技術』(BNN新社、2017、原題:『Positive Computing』)。著者:ラファエル・A・カルヴォ、ドリアン・ピーターズ、監訳:渡邊淳司、ドミニク・チェン、翻訳:木村千里(0-4章)、北川智利(5章)、 河邉隆寛(6章)、横坂拓巳(7,8,11章)、藤野正寛(8章)、 村田藍子 (9,10章) アマゾン https://www.amazon.co.jp/dp/4802510403/
本の内容に関するリンク、正誤表 http://www.bnn.co.jp/books/8473/
by w_junji | 2017-01-25 22:43


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