「書くことは掻くこと」だと
石川九楊(『筆蝕』という本の著者で書家)は言っています.
つまり,書くとは,世界を引っ掻いて,その痕跡を残すことだと.
紙に筆を滑らせるだけでなく,竹にナイフで彫る,砂に爪を立てる.
世界を削り取ることで何かを伝えようとする行為,それらは全て「書く」こと.
漢字のような表意文字だけでなく,
ひらがなやアルファベットのような表音文字であったとしても,
世界に刻み付けるという点で考えたら同じ行為といえます.
私たちは,掻かれたものを見ると,
それがどのように掻かれたのか想像してしまいます.
書道の専門家は,書かれた文字から,
それがどのように力を入れて書かれたのかわかるそうです.
話すことと書くことの共通点は,力であるような気がします.
同じく,石川さんは話すことは「放つ」ことだと言っていますが,
どのような力が込められて,それが放たれたのか,それが掻かれたのか
私たちは音声や書を知覚すると自動的に想像してしまいます.
一方で,日本語には殆どありませんが,音として発音しない文字があります.
閑話休題:発音しない文字だけをハイライトした本
Silenc: Highlighting the Silent Letters
いったいそれはどんな力を込められたのか.
それは呪術的なシンボルとして使われたのかも知れません.
力そのものではなく,力を指し示すモノとして.