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あなたはどなた?

とある社会学のゼミにでたら、院生の人が発表してました。
「ウィトゲンシュタインはここがおかしい」
「ヴァレラはわかってない」
「マトゥラナの気持ちもわかるんですが・・・」

はい、はい。そーですか。
あなたはなんでもご存知なんですねー。
と言いたくなるのをこらえて。

この人は
「作者が本に書こうと思ったこと」から
「作者の思想」を勝手に想像しただけではないのですか?
それでなんで気持ちがわかるなんて言えるのでしょう?

自分が関わっている人間についての学問は
知覚や感覚というすごーく個人的な体験を
論理的に実証し、推論することによって体系化しようとしています。

学問ていうものは、実は、学問として体系化してしまった時点で、
ナマの経験からは離れたところにあるバーチャルな世界だとさえ思うのです。
例えば、今自分が赤という色がみえているという経験と
頭の中でどういうメカニズムで色が見えているかを調べるために行なう実験の結果
(例えば、どれと見えている赤が近いですか? といくつか赤を示して選んでもらう)
ということの間にはけっこう溝があると思うのです。
見えるという経験と比べるという行動の結果は同じじゃないと思うのです。
ですが、科学では一応、実験という儀式によって
論理的検証をしたということにしています。

というわけで、体系化された学問が経験からずれたものにならないように
学問の世界では論理性、客観性にすごく厳しい。
具体的には、論文とか本には、
妄想、つまり論理的に証明できないことは書いてはいけないというルールがあります。

だから、本に書いてなかったからといって
作者が何かを考えていないとは一概には言えなくて、
院生の彼のように
そういうことを安易に推測してバカにしたような態度って凄く奢っている気がするのです。

本には作者の全てが書かれているという安易な理解と
自分は作者の気持ちを全てわかったつもりになっている傲慢さ
という点で。

相手は異なる価値観を持っている
そして、言葉はそれを全て表現できるわけじゃない。(特に本なんてメディアでは)
分かり合えないという前提のもとだからこそ
相手を尊敬してコミュニケーションできると思うのです。
「わかるわかる、その気持ち」とか「この作者わかってないよ」
そういう言葉って安易に使いたくないです。
by w_junji | 2004-10-05 19:40


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